ポチ - 3/3

「ただいま」
「お帰りなさい」
夜の静かなリビング。袋詰めされたオランジェットを控えめに父親に差し出して、リュウはそっぽを向く。
「ん?」
「ポチと作りました。どうぞ」
「なかなか上手くできたと思う。ご子息も頑張っていたぞ」
 少年に左手でリボンの裾を掴まれているポチは、彼の右手を父親目掛けグイと差し出させる。表情筋などないはずの布の顔は、晴れ晴れといった様相を見せた。
「そうかそうかぁ」
「別に。なんですかその顔!」
「んー。うちの子可愛いなの顔」
「ふふ、愛息子まなむすこに溶けそうになっているな主人よ」
 リュウは憮然ぶぜんとした態度を崩さず、父親の目の前にポチを持ち上げた。突然のことにポチがきょとんとする。
「そういえば父さん。――ポチは男の子ですよ」
「……え?」
「マジ?」
「はい」
「気にするな主人よ。仕事着としては間違えていない」
「ごめんねぇポチちゃん。明日洋服買いに行こうか」
「僕もいきます」
 無機質なリビングのカレンダーに家族の時間が一つ追記された。

 

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