ポチ - 2/3

「時にリュウよ」
「はい?」
「今日は予定があるのか」
「今日は休みなのでないですけど……」
「であれば、この邸宅を案内してほしい。本来であれば主人に頼むことではないが」
 柔らかな手同士をむにむにと押し付けあって、心なしかポチが萎れたように見える。ヘナヘナとした、自分の背の半分近くの大きさであるぬいぐるみを抱えて、リュウは頭を撫でた。 広々とした中庭で、白いシーツが数枚揺らいでいる。ポチはリュウの腕の中で辺りを見回してはシャッター音を鳴らしていた。
(この軽い体のどこにカメラが……)
「この屋敷は中庭が広いな」
「父さんが植物好きなので」
「ガーデニングか」
「季節ごとに様々咲きますよ!」
「なるほど、それは良い。植物を見るのはオレも好きだ」
 耳を跳ねさせポチは全身でガシャガシャウィンウィンと音を鳴らす。かすかにポチの体も空に吸い寄せられている。
(どこから、その音が出てるんだ……?!)
 今にも重力から逆らい腕から離れそうなぬいぐるみを、しぶとく抱え続け、リュウは両腕を空に掲げた。
「ねえ、ポチはその……空、飛べるんですか?」
「飛べるぞ。お前を連れて行く馬力もある」
 リュウの腕から離れたポチは、身のこなし軽く上空へ発つ。そしてすぐに、手に柑橘系の果実を持って目を輝かせリュウの肩まで戻ってきた。
「……、これからはピョンピョン飛ぶのは禁止です。何かあったら大変ですから」
「分かった」
 大人しく腕の中に収まったポチを強く抱えて、リュウは顎を頭に乗せる。
「これは後でオランジェットにでもしようか」
「いいですね」
(――固いな)
 布越しに硬く冷たい感触を感じとる。勝手口から室内に戻りながら、リュウはポチの体を抱え直した。

 
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