垣間見た世界

 少女と少年が学校からの帰り道、山中の歩道を歩いている。少女の方は時折よそ見をしながら、少年の方は麓からずっと石を蹴りながら進んでいた。
 カラン、コロン、と転がしながら、少年は少女に話を振る。話題は今日の学校でのことが主だ。少女はそれに答えつつ、伸びた影を見つめながら転がる石を見た。
「……それ、楽しい?」
「んー、楽しくないけどつまんなくもない」
「ふーん」
「そっちこそ、木ばっか見て楽しいわけ?」
「楽しいよ。私にとっては」
「そ」
 少女の言葉に自身の感想を述べ、少年が軽く石を蹴ると、偶然それが歩道脇の祠に当たってしまった。カラカラと軽い音が古い祠から落ちていく。
「やっば……どうしよ」
 少年は急いで祠の様子を確かめる。祠そのものにはほとんど変化はないが、傍に積まれた石が崩れていた。
「やっちまった……」
 少年が崩れた箇所を直そうとした時、直前まで彼の行動をただ見ていた少女が背をトントン叩く。
「その祠、直さなくていいと思うよ」
「は? 何言ってんだよ、もしかしたら神様に呪われるかも――」「そこに神様はいないよ」
 少女は寂れた祠を少年の肩越しに目に捉えながら、彼の声を遮るように呟いた。少年が眉を顰める。
「祠の前で……。神様いたら怒られるぞ」
「大丈夫大丈夫。ここには神様いないから」
「は……?」
「でも……。麓にあるほうの祠には神様が住んでるから、次からは気をつけたほうがいいかもね」
 螺鈿のように光り輝く目を少年に向けて、少女は穏やかに笑う。そのままどこか遠くを見つめ、小さく手を振る彼女に、少年はしばらく目を奪われていた。

 

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