夕方のタレコミ - 1/2

 東京都内某所、十五時も過ぎた繁華街はんかがいは小中高生と営業帰りのサラリーマン、地元の主婦。さまざまな人で埋まっている。騒がしい街角をすり抜けて、ひっそりと建つ五階建てのビルに男女の双子が入っていった。擦りガラスには【アペニン】と黒く書かれている。
 エレベーターの脇を通ってドアを潜ると何の変哲もない事務所が二人を出迎える。
「おつかれさまでーす」
「おつかれさまでーす」
 ラジオを同時再生するように声を揃えた双子が、事務所の会議スペースに設置されたテーブルへ通学鞄を置く。ソファ越しに見え隠れした頭頂部がひょっこりと上がった。
「お疲れー。みおちん澪二れいじちんもう学校終わったんだ」
「うん、三時過ぎたからすっかり放課後」
「リョウくんは講義じゃなかったの?」
「当日休講ー。まじ本当最悪労力返せっての」
 
「『うーんでもー、興味ある講義だから』って悩んだ挙句飛び地でとったのリョウくんじゃん」
 
 同時に双子――澪と澪二は、紺青こんじょうの長髪を揺らしてため息をつく。
「二人も大学生になりゃ分かるよマジで」
「ふーんそう……ボクはむしろ大学生活楽しみだけど。ね、オレ・・
「そうだねワタシ・・・
 くすくす鏡合わせのように笑う双子の脇を、ハーフアップの女性が通り過ぎた。かすかに茶葉の香りが事務所の真ん中で舞う。
「はいはいみんな危ない、熱いお茶が通るよー」
「ありがとうございます」
「かすみさんアリガト! これこの前言ってたいい茶葉?」
りょうくん大当たり! 新茶は縁起物だもん、やっぱ担がないとねぇ。ヤマハラさんも要ります?」
 かすみ、と呼ばれた女性の先には、横髪を耳にかけ欠伸をした壮年の男性がちょっとばかし良い出来の椅子に座っていた。背筋はよく伸びて、遠くから三人を見ている。
「貰おうかな。……そういえばレイ、テストの返却はどうだった?」
「モチばっちし!」
「満点! ヤマ爺褒めて!」
 双子はA4ファイルから丸だけのテストを出して山原やまはらに強く見せに行く。目が爛々らんらんと輝いて、一人用の机を挟み込んで大はしゃぎだ。
「おうおうレイはすごいなぁ。流石おばあちゃまのすえだ」
「「いえーい」」
 澪も澪二も整えた髪をもみくちゃにされるが、気にすることなく笑っている。むしろ座りながら撫でやすいように頭を低く差し出した。かすみもつられて笑いながら、湯呑みを音を立てずに置いた。
「冷めないうちにどうぞ、ふふ」
「おお、安曇あずみさんありがとう」
「お茶、忘れてた」
「美味しいうちに飲もう飲もう」
 双子も自分たちの席にそそくさと戻った。茶托ちゃたくから湯呑みを離して口をつける。